第3章



 謎の着ぐるみが穴に転落し、それなりの時間が経過した所で謎の着ぐるみが3人の元へ

と舞い戻ってきた。

 彼等が感じる限り特別な外傷や変化も無く、『ルッセルが何時も通り』と呟いてその場

は締められる事となった。

 その後カイルはギルドメンバーとの交流もソコソコ深まり、彼自身ギルドセンターから

受ける仕事も順当にこなして行き、冒険者としての技術も徐々に身についていった。





 3ヶ月程の時が流れた。

 今日もカイルは仕事を請けにギルドセンターへと向かっていった。

「あ、カイルさんお早う御座います」

 ギルドセンターの受付に辿り着くとラニアがカイルに微笑んだ。

「お早う御座います」

 カイルが挨拶を返すと、何か何時もと違う視線を感じ取った様な気がした。

「あの〜・・・」

「どうかしました?」

 カイルが改めてラニアを見ると口元を緩めカイルを見つめている姿が視界に入った。

「あ・・・いえ、何でもありません・・・すみません」

 ラニアは、カイルと視線があったかと思うと今度は地面を見つめだし始めた。

「え?別に謝る事でもないケド・・・?」

(何だったんだろう・・・?まぁ、何もないってなら別に気にする事は無いか)

「それで、今日はどんな仕事がありますか?」

 落ち着いた口調でカイルが尋ねた。

「え!?」

 彼女はカイルの声に対して目を丸くしながら彼の方へと視線を送った。

「いや・・・まぁ、何時もの通りなんですケド・・・」

「あ・・・ごめんなさい、ちょっと考え事してました・・・」

 ラニアは少しばかり目を伏せた。

「んー?風邪でも引きました?」

「あ、いえ、大丈夫です・・・えーっとお仕事の話でしたよね?」

 ラニアは漸く何時も通りの対応を見せた。

「今日もエンジャスでの依頼がありますけど、どうしますか?」

「それで構いませんよ」

「分かりました・・・毎度の事ですけどもあのエリアにはラーベントラーゲンが生息していま

すので十分に注意してください。ツェンタウァと違い魔物の中では知能レベルも高いとの

報告が上がってますので入念な注意をお願いします」

 『お願いします』の部分だけ何故かラニアの口調が強くなっていた気がした。

「丁寧な説明有難う御座います」

 カイルはラニアに対して一つお辞儀をし、ギルドセンターから立ち去った。

「何で女性に興味が無いんだろう・・・?」

 ギルドセンターから立ち去るカイルの背中を遠くに見つめながらラニアがポツリと呟い

た。

 

 エンジャスへ行く為には一度ヴィクチャと言う街に転送してもらい、そこから北東に向

かって歩く必要があった。

 転送士の爺さんの話によればエンジャスへ直接転送する事も出来なくは無いが、お主は

若いから歩けとの事であったが、その言葉を理不尽に思ったカイルが思わずマエルに視線

を送った所、上からの命令じゃがのぉと言う言葉が聞こえてきた。

 何度も歩いていけばその内転送許可が降りるじゃろうとも聞こえた。

 カイルは、毎回歩かされるのが面倒と言う事が不服に思うも仕方なくヴィクチャまで転

送してもらう事にした。

「流石学園の長(おさ)を務めるだけの事はあるのぉ」

 カイルの転送を終えた爺さんがそう呟いていた。

 秘境の地と言う言葉が似合うヴィクチャの地に辿り着いたカイルは北東へと足を進める。

 この地域は先に述べた秘境という言葉通り、湿地帯に近く、背の低い草木広がりが所々

沼も姿を見せていたりする。

 人間にとってはあまり住みやすい環境とは言えず、カイルが転送してもらった場所に僅

かながらの現住人らしき人達が住んでいるだけの様であった。

 時折姿を見せる魔物と対峙しながら先に進むと広がっていた草木の背丈が高くなり、ジ

ャングルという言葉が似合う地帯となっていた。

 カイルはその様なエリアをゆっくりと進んでいった。

 ここでもまた、時折魔物が姿を見せるのであったが特に苦戦する事も無く退治をし、先

に進んでいったのであった。

 密林地帯を抜けると今度は岩が無数に散らばる丘が広がる地帯が見えてきた。

 この辺り一帯もやはり人が住むには厳しい環境となっており時折みられる冒険者の他、

ヴィクチャ同様原住民の人達が村を作り住んでいる位であった。

 その冒険者はギルドセンターからの依頼を請け訪れる者の他、実はこの地域では珍しい

鉱石が手に入る事もありそれを手に入れて高値で売りさばく為に訪れる冒険者も居るので

あった。

 ここが今日カイルが請けた依頼をこなす必要のある地帯であるエンジャスである。

 エンジャスに辿り着いたカイルは一先ず崖上を目指して歩き出した。

 ここでもまた時折魔物が姿を見せたのであるが、カイルは足場に注意を払いながら丁寧

に魔物を撃破する事で難なく先に進む事が出来た。

 暫く登った所で、広場の様な感じで少し余裕のある足場を確保できる場所が見えてきた。

 落ち着いた所でカイルは改めて今回請けたの依頼を確認し、その依頼を遂行する事とし

た。

 任務の内容は指定された魔物を撃破し、その魔物の部位を一定数集めるという内容であ

った。

(そう言えば道中にも同じ魔物を何体か撃破したよなぁ・・・何か損した気分、まぁ足場が

悪かったし無理をしなかったと言う事にしておこうか・・・)

 少し落胆しながらもカイルは目的の魔物の殲滅を行う事にした。

 カイルが請けた依頼に書かれていた魔物を狩る事数刻、漸く依頼された量の部位を集め

る事が出来た。

 しかし、漸く終わったという開放感に浸るのも束の間、カイルは嫌なモノを目撃してし

まう事となった。

(な・・・なんでコイツがこんな所に要るんだ?)

 ほっと一息付いた後彼が見上げた視線の先に移る影、彼に取ってメンドクサイと思い出

来れば遭遇したくない存在・・・。

 恐らく相手は気付いていないだろう、そう思ったカイルは相手に気付かれない様に気配

を殺しゆっくりと腰を上げた。




 

「あは、ここは珍しい鉱石があると聞いたから来て見たけど正解だったわ」

 一人の少女が手にした石を見つめながら一人呟いていた。

 彼女は満面の笑みを浮かべながら周囲から石を採取し、ソレと分かった物を自分が持っ

てきた袋に詰めるという作業を繰り返していた。

「ここの魔物もあたしの魔法に掛かれば大した事ないしぃ〜」

 少女はご機嫌な様子を見せながら採石作業を続けている。

「あら?」

 少女がふと見上げた先に1匹の魔物が目に映った。

 彼女にとって始めてみる魔物であったのであるが、どうせ他の魔物と変わらないとタカ

を括ったのか、口元に笑みを浮かべゆっくりと立ち上がり印を結び始める。

 魔物との距離は・・・遠い。

「だからアイツはめんどくさいんだよ・・・」

 カイルが物凄く低い声で呟いた。

 カイルが気配を殺しその場を離れようとした直後、自分の上方から女性の叫ぶ声が聞こ

え念の為に振り向けばラニアから聞いた魔物の姿が視界に入る。

「・・・こんな険しい所まで来るのか?でも仕事とは言ってたよな?」

 カイルがもう一つ呟き少女の元へと足を勧めた。

「え・・・?あたしの魔法が効いてないの?」 

 エイミーは相変わらず自分の力を過信しているのか、相手を見下す癖があるのか分から

ないが、無謀にも魔物へ放った魔法が通用しなかった現実に驚愕をしていた。

 それと同時に、そう言えばエンジャスにも親玉的魔物が存在すると云う話を思い出した。

そして今目の前に居るその魔物こそがその時に説明された魔物であるという事も思い出す。

 魔物との距離はまだある。

 エイミーは道具袋に右手をかけピンク色の巻物を取り出した。

 どうやら先のツェンタウァとの戦いで学習をした様であった。

 しかし、エイミーが帰還の巻物の効力を発動させるために念じ様とした刹那、突如彼女

の右手が強力な熱を感じ取った。

 その熱に反応したエイミーの右手は無情にも手にした物を放してしまった。

 強力な熱の主は炎の塊であり、反射的に動いた右手は無事であったものの右手が手にし

ていたモノは無残にも炎の餌食になってしまう。

 このまま助かるはずだったのに、そう思っていたエイミーが驚愕な表情を浮ぶ。

(と・・・兎に角逃げなきゃ!) 

 魔物とエイミーの距離がもう少し縮まった所で我に返り、後ろに振り向き元来た道へと

引き返して暫く走ったのであったが、再び彼女の動きが止まってしまう。

「な・・・」

 それは彼女にとってあまりにも予想外の出来事だった。

 もし魔物なら・・・多分何とかなる、だけど・・・。

「なんでアンタがここに居るのよ!?」

 エイミーが反射的に声を荒げる。

「説明は後、兎に角走るんだ」

 カイルは僅かな迷いも無くエイミーの手を取り元来た道を引き返す。

「あ・・・」

 更に予想外な事を感じたエイミーの声が小さく零れていた。

「僕の帰還書をあげるから使って」

 エイミーの手を引きながら走るカイルが、空いた手で道具袋の中に手を入れようとする。

「いや!」 

 エイミーの少し力の入った言葉が辺りに響いた。

「え?」

 エイミーから聞こえた予想外の言葉にカイルは思わず目を丸くした。

「そんな事したら貴方が・・・貴方はどうなるの?」

 エイミーの瞳が少しだけ潤んでいる。

「・・・大丈夫、僕の事なら心配ないよ」

「嘘ついちゃダメ・・・砂漠の時だって・・・」

 エイミーが力弱い声で呟く。

「あの後ギルドセンターで噂を聞いたのよ・・・」

 カイルは一度エイミーを見つめ、

「今僕は生きてる、それに今回は絶対に大丈夫だ」 

 カイルは満面の笑みをエイミーに浮かべた。

「・・・やだ」

「・・・君が逃げなければ君が死ぬ、僕が逃げなくても僕は死なない」

 カイルが呟いた。

「説明をしている暇が無いからこれを使ってくれとしか言えない」

「死んだら許さないから・・・」

 カイルのまっすぐな言葉にエイミーは観念した。

(魔物の気配が遠のいた?・・・だとすると・・・)

 カイルは道具袋の中から物を取り出しエイミーに渡そうとした。

 刹那、カイルが物を手にした手に目掛けて熱気を感じ取る。

 しかし、その気配を悟った瞬間に物から手を離し再び道具袋に手を入れ今度はピンク色

の巻物を取り出しエイミーに手渡した。

「しくじるなよ」

 カイルはエイミーと繋いだ手を離し彼女の後ろ側に移動し立ち止まり、鞘から剣を抜き

身構える。

 丁度剣を抜き終えた所でもう一度『絶対に死なないで』と言う言葉がカイルの耳に伝わ

った。

「学長、貴方を信じさせてもらいますよ!!」

 カイルが叫び魔物に向かって地面を蹴った。

 この足場で逃げ切れるとは思えない。

 だとしたら迎撃するしかない、しかし僕の力で迎撃できる可能性は低いと言う事位分か

っている。

 だけど、僕は僕にしかない特別な状況がある、だからソレを信じるしかない。

 覚悟を決めたカイルが一歩、また一歩と魔物との距離を詰める。


「ふ、流石学長に見込まれただけはあるな、合格だ」

 何処に居たのかは分からない、だがカイルの近くから聞こえた謎の声。 

「後は俺に任せてカイルはそこで待ってるんだ」

 カイルの目の前に立ち塞がった人物、左右の手に1本ずつ剣を携えた剣士、ヴュストタ

ウンで現れたあの剣士だった。

 カイルがニッっと笑みを浮かべる。

 フィルリークの登場、彼の実力を察知したラーベントラーゲンは一瞬怯むが、彼との距

離があると踏み印を結び始める。

「甘いな」

 魔物が感じ取った実力通りか、距離が離れているからと放った魔法は彼の一振りによっ

てあっけなく消されてしまう。

 魔法が通用しないと悟った瞬間、ラーベントラーゲンに一瞬の隙が出来る。

 当然フィルリークがその隙を見逃す筈も無く、魔物との距離を一気に詰め右手に手にし

た剣を振り下ろす。

 しかし、魔物が手にした盾が一瞬早く反応しフィルリークの攻撃をはじき返した。

 だが、防がれる事自体想定内と言わんばかりに左手に装備した剣が、ラーベントラーゲ

ンが盾を持つ手に襲い掛かる。

 辛うじて防いだ右手の一撃、辛うじて防いだ訳でありフィルリークの左手から繰り出さ

れる一撃に対して反応すら出来なかった魔物。

 大量の鮮血が辺りに舞い、切り離された左手が宙を舞う。

「討伐命令は出ていない」

 フィルリークが魔物の喉元目掛け右手に装備した剣を突きつける。

 ラーベントラーゲンが言葉を理解できたかどうかは分からない、だがフィルリークの放

つ殺気、左腕を斬り飛ばされたという自分の置かれた状況を理解出来たのかどうか分から

ないが魔物は右手に装備していた武器を床に置いた。

「不意打ちは通用しねぇぞ?」

 更に強い殺気が辺りを覆った。

 ラーベントラーゲンは・・・ゆっくりと後ずさりフィルリーク達の元から遠ざかった。

「有難う御座います」

 ラーベントラーゲンを退けたフィルリークに駆け寄り一つ礼を入れた。

「気にするな、仕事だからな」

 フィルリークは左手に装備した剣に付いた血糊を振り払い双方の剣を鞘にしまった。

「気になるのですが、倒さなかったのは何故でしょう?」

「知能がある魔物なら無駄に殺生する事も無いと思ったし、俺が倒してしまうと他の冒険

者の仕事が減る」

 フィルリークがカイルを見ながら答えた

「でも、フィルリークさんが報償をもらえるのでは無いですか?」

「貰えるが、俺はあまり金に興味が無い」

「そうですか」

 カイルが納得したのかフィルリークに向けていた視線を外した。

「流石だなカイル、俺を最大限に利用したのは正しい選択だ。あの場面カイルが帰還して

しまえばあの少女の命は無かっただろう」

 フィルリークが再び視線をカイルに向けた。

「前回俺が言った言葉から俺を上手く利用する方法を作り出し窮地を乗り切った。学長の

教えをきっちりと生かしているな」

「有難う御座います」

「街まで送る」

 フィルリークが印を結び始めた。 

 数秒後、フィルリークとカイルの周りを帰還の巻物を使用した時に見られる光が包み込

んだ。 

 更に数秒経ったところでカイルの視界にヴュストタウンの町並みが映った。

「次も俺を上手く使えば良い」 

 カイルを街に送ったフィルリークは再度転送魔法を使いその場を去っていった。




 

 ‐ギルドハウスにて‐

「女の子の入隊なんて久しぶりだわねぇ」

 アリアーナが薄い笑みを浮かべ呟いた。

「そうですよね」

「ふふふ、どうやって調教してあげようかしら?」

「え・・・アリアーナさんって両方いけるクチだったのですか・・・?」

 エリクは、妙な事を想像したのか思わず目を丸くしていた。

「あら?何を想像してるのかしら、いやらしいわねぇ」

 アリアーナが笑みを浮かべながらエリクに顔を近づけた。

「え?・・・いや、その・・・」

 アリアーナの言葉に戸惑ったエリクは視線を泳がせていた。

「クスッ、冗談よ」 

 アリアーナは、最後にいたずらっぽく笑うとエリクの居た場所から遠ざかっていった。

 それから暫く時間が経ったところで、

 アリアーナはギルドハウスから離れた場所に少女と二人座っていた。

「エイミーだっけ?私はアリアーナ、改めて宜しくね」

「此方こそ宜しくお願いします」

「それにしても珍しいわねぇ、貴女みたいなタイプだったらギルドなんかに所属しないで

一人旅を続けていそうなのに」

「鋭いですね」

 エイミーが言葉を放った直後、エイミーの視線はアリアーナが居る場所とは別の方へ向

いていた。

「クスッ、ひょっとしてカイル君かしらぁ?」

「な・・・」

 その言葉に対してエイミーの目が思わず開いてしまう。

「ごめんごめん、だってギルドセンターに居る時の貴女の姿を見るとね」

「・・・」

「カイル君と受付の人が楽しそうに話している時、毎回彼女を睨んでちゃねぇ」

「クッ・・・」

 地面から強い音が聞こえた。

「ふふ、悪い話じゃないから最後まで聞きなさいって」

 音が聞こえた直後にはアリアーナがエイミーの腕を掴んでいた。

「離して!」

「年功者の話は聞いておいて損は無いわよ?」

 アリアーナが笑顔を見せる。

「く・・・」

 しかし、アリアーナの見せる笑顔とは裏腹に感じる鋭い空気に負け再びエイミーは腰を

降ろす事になった。

「ありがとう、話を続けるわ」

「・・・」

 エイミーは相変わらずアリアーナから視線を外している。

「明日のお昼にお茶でも誘ってみたらぁ?」

「な・・・あ、あたしはアイツから借りを返したいだけよ」

「借り、ねぇ?」

 アリアーナがエイミーの顔を覗き込む。

「そうよ、助けられてるだけじゃ気が済まないのよ!」

「だからわざわざギルドに入ったのかしら?」

「そうよ!」

 エイミーが睨みつける様にアリアーナを見た。

「お姉さんの感では貴女の性格だと貸し借りなんて意識しないと思うのよねぇ」

 アリアーナが少しばかりエイミーとの距離を離して、

「あくまで私の感だけどねぇ」

 再びアリアーナが顔に笑みを浮かべる。

「あ・・・あんな奴の事なんてっ」

 エイミーが大きく視線を外す。

「カイル君は女興味が無いから関係ない?」

「なッ・・・」

 エイミーはアリアーナを横目で視線を送った。

「カイル君はまだ若いからねぇ、考え方なんて幾らでも変えられるわよ?」

「だからあんな奴の事!」

 エイミーは強い口調を残し再び視線を外す。

「食べちゃえば?」

!!!

 エイミーが頬を赤めながらアリアーナを睨みつける。

「クスッ、貴女が彼に女を教えて女に興味持って貰うという手もあると言う事よ」

「いい加減にッ!」

「なら私が食べちゃおうかしら?」

「してよっ!」

 エイミーが右手を振り上げた。

!!!

 しかし、次の瞬間エイミーが振り上げた右手はアリアーナの手によって止められた。

「冗談よ、・・・ごめんなさいちょっと言い過ぎだったわね」

 エイミーに込められた力が抜けるのを確認し、アリアーナが手を離した。

「貴女が考える以上に打開策はあるし、貴女が考える以上にライバルも居る」

「・・・」

 エイミーが地面を見つめる。

「ラニアって娘もそうだし、もしかしたら私もそうかもしれないし、貴女の知らない誰か

がそうかもしれない。」 

 アリアーナが柔らかい笑みを浮かべ、エイミーを見た。

「どうして・・・」

 エイミーが少しだけ視線を上げた。

「どうしてあたしの事を・・・」

 少しだけアリアーナの方へ顔を向けた。

「5年位前かしらねぇ、勝手に自分でダメだと決め付けて何もしないままで居て凄い後悔

をし人がいるのよね」

 アリアーナがゆっくりと静かにしゃべりながらエイミーを見つめる。

「その人が、貴女に似ていた、ただそれだけの事よ」

「・・・」 

「ごめんなさいね、どうしてもヒントを与えたくなっちゃってね」

 アリアーナがもう一度エイミーに対し笑顔を見せた。

「勿論、生かすも殺すも貴女次第よ経験を教える事は出来ても、強制する事は出来ないわ」

 アリアーナが空を見上げた。

「・・・カイル」

 エイミーは地面に向けゆっくりと呟き静かにその場を立ち去った。


「あ、アリアーナさんお帰り」

 ギルドハウスへと戻ったアリアーナをエリクが出迎えた。

「ただいま」

「何をしてたのですか?」

「何だと思う?」

 アリアーナがエリクに薄らとした笑みを向けた。

「男漁り」

 エリクの後方に居たルッセルが答えた。

「惜しい」

「じゃあ女漁りですか」

 エリクが答えた。

「残念、私は女に興味は無いの」

 アリアーナがエリクの頬を引っ張りながら言った

「惜しいって言ったじゃないですかぁぁぁ」

 エリクがアリアーナの手を見ながら言った。

「答えは秘密よ」

 アリアーナがエリクの頬から手を離した。

 アリアーナがギルドハウスに戻って暫く下後、エイミーが新規加入した事もありギルド

メンバーと一緒に食事を取る事となった。

 カイルとエイミーも同席したのであるが、カイルはエイミーの事を特に気にする事も無

く、エイミーはカイルに対し頻繁に横目で視線を送っていた。

 食事中、アリアーナがカイルに大してこっそりエイミーやラニアの事をどう思うかと尋

ねたのであったが、彼の回答はどちらも『僕は女性に興味ないですから』との事だった。

アリアーナが二人とも美人なのに勿体無いと呟くと、『それでも僕は女性に興味が無いで

すから』

と返すだけだった。

 そうして何事も無くギルドメンバー同士の食事を終える事となった。





 ‐某日‐

 とある一室にて。

「まさかつりついた相手が国王とは・・・何とも不運な事ですな」

 男の声が鏡に向かって呟いていた。

「それも羊の着ぐるみってどんな趣味をしているのでしょうか・・・」

 今度は机に向かって歩き出す。

「この身体では私の技能が十分に生かせませんねぇ・・・かと言って他にとりついたところで

人間程度では同じ事ですし・・・」

 男は机に置かれた紙に目を通した。

「人間がダメなら機械・・・でも作ってみますかねぇ・・・」

 白紙の紙を取り出し右手にペンを持つ。

 この後も男はぶつぶつと呟きながらあーでもないこうでもないと呟きながら何かの作業

を行っていた。

 途中で部屋にノックをする音が響くのであるが、今は仕事中と丁重に断りを入れ追い返

した。

 数刻程の時が流れた所で、

「完成させるには随分と費用がかかりますねぇ・・・まぁ税金で賄えば良いでしょう」

 そう呟いて彼は席を立ったのであった。



 数日後。

 ‐ギルドハウスにて‐

「可笑しい」

 唐突にルッセルがみんなの前に呟く

「何がですか?」

 その呟きに反応をしたエリクが尋ねた。

「ラロフィーノ王が・・・」

 ルッセルがエリクに視線を向けた。

「王様がどうかしました?」

「・・・真面目」

 ルッセルが呟く。

「うーん、そういわれてみればそうですねぇ」

 エリクが腕を組んでみせた。

「この前部屋に行ったら仕事中と言われた」

 ルッセルが首を横に振りながら言った。

「え?」

 予想外の言葉を受けたエリクが思わず目を丸くしてしまった。

「最近街民から羊の着ぐるみに付いての報告が来ない」

 ルッセルが細々とエリクに告げた。

「ええ?」

 思わずエリクの口が開いてしまった。

「変」

 ルッセルが、再び首を横に振りながら呟いた。

「うーん、そういわれてみれば私も国王が何か変と言う気がします」

 エリクが髪を掻きながら答えた。

「情報が欲しいですね」

「同意」

 この後二人は何時もの通りすごす事となり暫くの間特に以上の無い平穏な日々が続いて

いた。

 しかしその平穏な日々が何時までも続く事が無かった。

 ラロフィーノ王が突如税金を上げると言うお達しを出したのであった。

 その内容は、物を購入した際に徴収する税金、ギルドで仕事を依頼する際に徴収する税

金、住居に対する税金と言った様々な税金に対してであり、その上昇比率も緩やかなもの

でなく、下手をすれば生活に影響が出てしまうほどの高い比率の増税であった。

 今はまだ増税をすると言うお達しだけであり住民の生活が脅かされている訳でなく特に

大きな反応をする住民は殆ど居なかった。

 それでも文面を見ただけで怒り狂った民衆の一部が暴徒と化し暴動を行ったのであった

が、国王軍の兵士達により鎮圧され一般民衆には何事も無かったとの説明がされただけで

終わる事となった。


「ラロフィーノ国王」

 男性がドアを叩く

「すまないが今仕事中である故改めて頂けないか?」

 ラロフィーノ王がノックの音に対し返事をする。

「急用だ通して欲しい」

 男性がゆっくりと、太い声で告げた。

 ラロフィーノ王は急用と言う言葉を聞き入れると入り口のドアを開けた。

「久しぶりだな、ラロフィーノ国王」

 男性がゆっくりと挨拶をする。

「・・・緒久しぶりですカオス学長」

 カオスはラロフィーノ王が発した刹那の間、等を見逃さなかった。

 しかし今は問いかけるべきでは無いと判断をし、彼に対し視線を一つ送るだけでとどめ

ておいた。

「重税を行った理由を問いたい」

 カオスがラロフィーノ王に詰め寄る。

「・・・それはお答え致しかねます」

 ラロフィーノ王もまた、カオスに詰め寄った。

「そうか・・・ならば前王として忠告をさせていただく、このままではいずれ民の反乱が起き

覇権を失う事になる」

 カオスは間を起き改めてラロフィーノ王を見て、

「私の忠告を受け入れるかどうかは貴公の自由だ、しかし私の行動は変わるだろう」

「ご忠告感謝する」

 ラロフィーノ王が告げる。

「・・・私はこれにて失礼しよう」

 カオスがラロフィーノ王の部屋を立ち去った。

 今後この国がどうなるのか、その未来が彼には透けて見えている様であった。


 

 国王より重税の通達がされ3ヶ月の時が流れた。

 今はまだ年に一度徴収されるタイプの税金が徴収をされてない為に民衆の生活はそこま

で脅かされていない。

 しかし、消費材に付与される形の税金と言った直ぐに徴収されるタイプの税金による負

担は徐々に民衆の生活を蝕んでいった。

 そのせいか、街の中で度々暴動が発生するようになっていたのであるが、その規模も小

さく直ぐ国王軍に鎮圧される形となっており、表向きに情報が伝わる事は無かった。

 

「最近税金が重くなりましたよねぇ」

 今日もまたギルドセンターへと訪れ依頼を確認しに来たカイルに対しラニアが雑談を促

した。

「そうだね、その影響かな?仕事をしなきゃいけない人が増えて僕が選べる仕事も少なく

なった気がするんだ」

 カイルは左手で頭を掻きながら、今日の依頼が書かれた紙を見ながら返事をした。

「それはありますよぉ、ここでお仕事を貰いに来る冒険者の人も随分と増えてます」

 ラニアは両手で頬杖をつきながらカイルに返した。

「うーん、僕は並ぶのが嫌いだからと人が少なくなる時間を狙ってくるのだけど、もう少

し早く来た方が仕事の種類も多いかな?」

 と言っても僕の場合は固定収入があるからなぁ、無理に仕事を請けなくても良いか。

「・・・え、あ、はい、そうですね」

 考え事をしたのかラニアの返答が一瞬遅れてしまう。

「ん?どうかしたの?」

 その間が気になったのか、カイルが紙に向けていた視線をラニアの方へと向けた。

「あ・・・いえ、カイルさんが朝早く来たらカイルさんとゆっくりお話出来る時間が無くなっ

て寂しくなるなんて考えてませんよぉ」

 ラニアが早い口調で苦笑いを浮かべながら答えた。

「え・・・?」

 カイルは自らが想定出来る事の出来ない言葉を耳に受け、目を点にしながら口を軽く開

きラニアを見つめていた。

「へ?今私何か言いました?」

 カイルの表情に違和感を覚えたラニアが首を傾げながらカイルに尋ねた。

「いや、僕と話が出来る時間が無くなって寂しくなるとかどうとか・・・」

 カイルの言葉を受けて記憶を模索したラニア。自分が何を言ったのかが脳の中ではっき

り浮かび上がった。

「あ・・・」

 途端にラニアの顔が真っ赤になり、頬杖を付いていた手をひざの上に乗せて俯いてしま

った。

「えーっと・・・」

 返答に困ったカイルは思わず左手で頭を掻いた。

「うー・・・ここまで言ってしまったなら仕方無いです・・・」

 ラニアは視線だけカイルの方を向けて、

「えっと・・・今度一緒に買い物に行きませんか?」

 ゆっくりと、途切れ途切れな言葉でカイルに問いかけた。

「別に買い物位構わないけど?」

 カイルは首を傾げながら即答をした。

「え?」

 カイルの言葉を聞いたラニアが目を丸くした。

「どうかしたの?」

 もう一度カイルが首をかしげた。

「今なんていいました?」

 ラニアがゆっくりとカイルに尋ねた。

「いや、だから一緒に買い物しても構わないって」

「良いのですか?」

 ラニアは視線だけカイルに向けたままカイルに尋ねた。

「うん」

「でも、カイルさんって女性に興味が無かったんじゃないのですか?」

「女性に興味が無いからって一緒に居るのすら嫌な訳じゃないから大丈夫だよ」

 カイルが軽い笑顔を見せて返事をした。

「じ、じゃあ私が休みの日にお願いしますよぉ」

「分かったよ」

 その後カイルは数少ない依頼の中から選びその依頼を難なくこなした。

 今まで気にしていなかったのだが、依頼をこなした後手元に残るお金が妙に少なくなっ

た様な気がしていた。

 とは言え、カイル自身必要最低限以上のお金を使う事が滅多に無かった為特に気にする

事も無かった。

 ラニアとの約束の日まで数少ない依頼をこなして行った。

 一応カイルは一度だけ朝早くからギルドセンターへやって来てみたものの、確かに選べ

る仕事の数は以前と大差は無かったのであるが、並ばなければいけない苦痛を超えるほど

のメリットが得られないと

感じた為結局仕事の種類が少なかろうが今まで通りの時間に訪れる事とした。

 


 ‐数日後‐

 ラニアと約束をした時間よりも少し早く集合場所に辿り着いたカイル。

 今日も天気が良いと思いながら暫く空を眺めてるとカイルの耳に女性の声が響く。

 ‐カイルが振り返り視界に移った女性‐

 普段は制服を着て座っている姿しか見られなかった女性。

 今カイルの視界が捉えている、綺麗に着飾った可愛い女性。

 首筋程まで伸びた髪が二手に纏められていて、いつもと違う眼鏡が魅力を引き立てて、

やや低めの身長に痩せている訳では無いけど太っている訳でもない体型がが可愛さを引き

立てていて。

「あ・・・」

 そんな魅力的な女性を前に口を少し開いて固まってしまうカイル。

「お待たせしちゃってごめんなさい」

 悪戯な笑みを浮かべながらカイルを見つめるラニア。

「いや・・・」

 僕が時間よりも早く来ただけだから気にしないで、

 それが言葉に出来ない。 

 何となく身体が熱い、そんな気がした。

 気温が高い訳じゃないケド、何でだろう?

「大丈夫・・・ですかぁ?」

「あ・・・うん」

 やっと言葉が出せた。

 自分でも良く分からない感覚に襲われたまま、ラニアに先導され買い物へと赴いた。

 何度もラニアから話題を出されるものの、生返事しか返す事が出来なかった。

 しかし、それでも彼女は笑顔を絶やさなかった。


別に運動した訳じゃないのに何でだろう・・・‐

 

 まるで魔法でも掛けられた様な感覚に襲われながらもラニアと一緒に街中を歩いていっ

た。

 暫く歩いたところでラニアが甘いものが食べたいと言いだしそのお店の前へと連れられ

た。

 お店の前に辿り着くと、ラニアが甘く柔らかい笑みを浮かべながら上目遣いでカイルを

見つめた。

「えっとぉ・・・」

 ラニアがゆっくりと指を動かしお店の方を指した。

「・・・良いよ」

 何故だか分からないけど、ラニアが何を望んでいるのかが分かった気がした。

 カイルがラニアにぎこちない笑顔を返し、お店の方へと向かいクレープを2つ注文した。

 そして、外に設置されたテーブルに付属されたイスに座ってカイルを待っているラニア

の元へと戻る。

「やったぁ、ありがとぉ〜」

 カイルが手にしたクレープを受け取ったラニアが子猫の様な眼差しでカイルを見つめる。

 幸せそうな笑顔で頬張るラニア。


熱でも出たのかなぁ?‐


「そう言えばカイルさんって・・・どうして女性に興味が無いのですかぁ?」

 クレープを3口程頬張ったところでラニアが尋ねた。

「え・・・?」

 突然の問い掛けに戸惑うカイル。

「あ・・・ごめんなさい、聞いちゃ不味かったです・・・よね?」

 ラニアが少しだけカイルに向けていた視線を外す。

「いや・・・」

 カイルが目を閉じて呟く様に返事をした。

(別に身体の調子が悪い訳でもないけど・・・)

 カイルが1つ深呼吸をして、

「多分、だけど、ずっと学業の事しか頭に無かったからだと思う」

 カイルの口から細々と搾り出された声。

「首席を取る事しか考えてなくって色恋沙汰に関心が湧かなかった」

 カイルがラニアに1つ視線を送った。

「女性の事を考えるよりも、もっと良い成績を取る事しか頭に無かった。首席になれたら

もっと良い成績

を収める事しか頭に無かった」

 カイルが空を見上げる。

「女性から話し掛けられた事も誘われた事もあるんだけど、やっぱり勉強を優先してた」

 カイルが見上げた視線をラニアへ向けた。

「そうなんだぁ」

 ラニアが和らいだ表情でカイルを見つめた。

 その後もラニアと一緒に買い物の続きを行った。

 道中金色の髪をした女性から鋭い視線を感じるような気がしたが、今日のカイルがその

手のモノを敏感に察知する事が出来る訳も無くその場は適当に流すだけで終わった。

 最後はラニアの笑顔で見送られラニアとの買い物を終えたのであった。



王室にて‐

「例の物の完成状況は・・・」

 王室にて一人呟くラロフィーノ王。

 机の上に並べられた資料を見ながら、予算がまだ足りないだの開発状況が今ひとつだの、

2ヶ月後の税金が手に出来れば予算不足は解消出来るけどまだ足りないといった言葉を一

人呟いていた。 

「民衆?」

 机の上に並べられた資料の内一枚の紙を見たところでラロフィーノ王の手が止まった。

 その紙には民衆から重税に対する抗議文の様な物が集められていた。

 ラロフィーノ王は眉を潜ませ暫く紙を睨んだ後、『そんな物はどうなっても良い』と呟

き何事も無かったかの様に次の資料を見出した。

「これさえ完成すれば・・・」

 

 そんな場内、まだ不満を募る兵士は少ない。




 更に2ヶ月の時が流れた。

 ここに来て年に一度支払う必要のある税金が徴収された。

 その額はあまりにも多く、多数の民間人が持っている物や生活の質を下げる必要が出て

きたりしていた。

 しかし国王軍の徴集は容赦なく、税金が支払えない者の中にはごく一部ではあるが、住

んでいる場所ですら追われてしまう者すら現れてしまった。

 住民の国に対する不満は一気に跳ね上がり、暴動の規模も今までより大きな物が発生す

るようになり、暴動の鎮圧事態は国王軍の手によって出来たのであったが、大きくなった

規模のせいもあり情報統制まで

は出来なくなってしまい、遂に民衆の耳にも暴動が発生していると言う噂が入るようにな

ってしまった。

 それでもカイル自身は生活に困る事は全くなかったのであるが、そんな情勢を見て国王

軍と言う物に対して少しばかりの疑問を持つ様になっていたのであった。


「じゃあ今日はこの仕事を請けるよ」

 カイルは何時も通りギルドセンターで仕事を請けた。その時、ラニアが笑顔を浮かべな

がら『がんばって下さい』と自分の手をカイルの手に添えながら言った。有難う、とカイ

ルが笑顔で返した。

 そこまでは最近の中では何時も通りのやりとりであるのだが、その日はギルドセンター

を出た所でなにやら鋭い視線を浴び続ける事となった。

 カイルが何だろう?と振り返っても特に原因が分かる事もなく仕方なく気にしない事に

した。

 陽が沈みかける頃、カイルはその日の仕事を終えてギルドハウスへと戻った。

 いつも通りギルドメンバーと他愛の無い会話が繰り広げられる・・・かと思った。

「バカイル!!!」 

 耳を劈く様な声がカイルの耳に響く。

 その声が発する勢いのせいか思わず声のした方を振り向いた。

 すると、ソコには口を尖らせ目を据わらせたエイミーの姿があった。

 何事だろう?と思ったカイルがあっけに取られながら彼女を見た。

「ご飯よ、ご飯!」

 エイミーは、訳の分からないままあっけに取られているカイルの事などお構い無しに彼

の腕を引っ張り外へ

と引きずり出していった。

 何なんだよこの女、怒ってたと思ったら飯に誘うって・・・同じ女なのにラニアさんとえら

く違うんだ?

「ギルドセンターに居る娘が良くてあたしがダメな訳ないよね!?」 

 エイミーはギルドハウスで出てから暫く引き摺った所で、カイルの顔を覗き込みながら

言った。

「何の話だよ・・・」

 脈絡のない話に呆れるカイル。

「女の子に興味が無いって言っておきながらデートしてたのはどこのどいつよ!?」

 カイルを睨みつけながら顔を近づけるエイミー。

「何で知ってるんだよ・・・」

「見てたからよ!」

「僕をつけてた訳ね・・・」

 カイルがため息を1つついた。

!!

 エイミーが一瞬目を丸くした後にカイルを睨みつけた。

「そ、そんなんじゃないわよ!!!

 エイミーがカイルに向けていた視線を外した。

「耳が痛い・・・」

「と・・・兎に角!他の女のこと遊びに行ける位ならあたしとご飯食べる位良いでしょ!!!

 再びカイルに視線を戻すエイミー。

 カイルがふとエイミーの顔を見ると少しだけ頬が赤くなっている事に気付いた。

「ま・・・まぁご飯位なら別に構わないケド・・・」

 カイルが細々と呟やいた。

「当然よ!」

 カイルは相変わらずエイミーに引き摺られながらも食堂へと辿り着きそこで食事を取る

事になった。

 食事中エイミーがカイルに問いかける事は全くなく、それどころかカイルの居る方とは

正反対の方向へ視線を向けていた。逆にカイルはちょこちょこエイミーに話を振っても生

返事しか帰ってくる事はなかった。

 そんなやや重めの空気を引き摺りながらお互いが食事を終えただろうと言う事で、

「・・・ねぇ」

 エイミーがボソリと呟いた。

「え?」

「」

 ゆっくりと、細々とした声がカイルの耳に入ったのであるが、その声があまりにも細く

カイルにはよく聞こえなかった。

「何か言った?」

「だから・・・」

 顔を真っ赤にしながら横目でカイルを見るエイミー。

「女の子の事・・・詳しく教えてあげる」

「詳しく?」

 なんじゃそりゃ?自分の性格でも詳しく語るって事かな?

「だから・・・その・・・身体を使って・・・」

 横目でチラチラカイルを見ながら途切れ途切れに言葉を放つエイミー。

 身体を使って女を教える?つまり、女性特有の格闘技でも教えるって事?でも彼女は魔

術師だよなぁ・・・まさか!?

「身体?」

 カイルは目を丸くさせエイミーを見つめる。

「・・・・・・そうよ」

 そうか、杖を使った格闘術を駆使して女の子が何かを教える訳か。

 ・・・正直今の僕には手加減して余裕に勝てるイメージしか浮かばないよ、まてよ?エイミ

ーが教えるって事は・・・僕が一方的に殴られるって事じゃないか?それだとしたら正直どう

かと思うし。

「ウーン・・・ごめん、僕にはそう云う趣味は無いんだ・・・」

 申し訳無さそうに少し目を伏せてエイミーを見るカイル。

「な・・・」

 エイミーは全く想像しなかった返答に対して言葉を失った。

「もう少し優しそうなイメージが出来れば・・・」

 カイルがエイミーに向けていた視線を外しボソリと呟いた。

「こんのバ・カ・イ・ル!!!」 

 食堂一室に響き渡る程大きな声が発せられた。 

「このあたしが勇気を出したのに何よその態度っ!どーせあたしはギルドセンターに居る

女の子と違って大人しくないですよっ!」

 エイミーはカイルを睨みつけると座っていた椅子を蹴飛ばし早足で店を出て行った。

「み・・・みみが・・・」

 って僕が彼女の食事代も払わなきゃいけないのか・・・お金に困ってないから別に良いんだ

けどなんかしっくり来ないなぁ・・・。

 カイルは居なくなったエイミーの分の支払いも済ませ店を後にした。

 それにしても、エイミーはどうしたんだろう?近付いたり離れたり変な感じだったんだ

けど・・・?

 店を出たカイルは気分転換がてら空を見ながら軽く散歩をした後にギルドハウスへと戻

っていった。

 カイルがギルドハウスに戻るとそこにエイミーの姿はなかった。あの状況ならエイミー

がこの場に居なくてもまぁ不思議な事じゃないなと思ったのであったが、アリアーナの姿

も同時に見えない事が気に・・・なった訳でもなく、あの女性なら適当にふらついてるだけで

しょうという解釈で済ませた。

 それよりも、カイルが散歩をしていた道中で見かけた民間人のグループがしていた会話

の中で、おぼろげながらではあるが耳にした「革命」がどうのこうのと言う事が少しばか

り気になっていた。

 カイルが思い返してると自分も物凄い額の税金が取られていた事を思い出した。税金を

支払った時点では今現在自分が所有しているお金と比べれば大した事が無い額と流してい

たのであるが今になってその額が強大な物であった事を思い返した。

 そう言えば家を売らなければならなくなり住む場所が無くなったと嘆いていた人も居た

気がする。

 ・・・一体この街はどうなっているのだろうか?

 少しばかりの疑問が徐々にカイルを蝕んでいる、そんな気がしてきた。


 更に一ヶ月の時間が流れた。

 この頃になると市民の生活の酷さが垣間見れる程の惨状が街中に広がっていた。

 下手をすれば国王軍に仕えるもの、優秀な冒険者、一流レベルの技術を持って商売をし

ている人以外まともな生活が出来ている様には思えなかった。

 カイルが街中を歩く度、時折見せられる路上で生活をしていると思われる人達を見ると

否応無しにもそう思わざるを得なかった。

 この街はこれからどうなるのだろう?

 再びカイルはその様な思いを頭にめぐらせた。

 そう言えば、こんな民衆からも容赦なく徴税をする国王軍って何なんだろう?

 僕は、このまま国王軍に仕えても良いのだろうか?

 学長は冒険者として経験を積んで国王軍に入る道を勧めた・・・

 だけど・・・

 いや、国王軍に入らずに冒険者だけをして生活していけるのだろうか?

 僕は、どうするべきなのだろうか?

 


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